ドラマ『イ・サン』は、冒頭で父親の思悼(サド)世子が米びつに閉じ込められて餓死する場面が描かれていた。これは、「時代劇の巨匠」と言われるイ・ビョンフン監督の典型的な手法だ。歴史的な重大事件を最初に描いて主人公の人生が大いに左右されるという導入部は、イ・ビョンフン監督が一番好きなスタートなのである。
正祖の魅力とは?
世子であった父親が米びつで餓死するのだから、主人公イ・サンにとっても大変な衝撃であった。
それを乗り越えて立派な名君になっていくプロセスがドラマ『イ・サン』では克明に描かれていた。
「朝鮮王朝実録」の記述を見ると、正祖は1776年に即位した後も、王宮に暗殺団が侵入するという事件に遭遇している。まさに、常に命の危険にさらされた国王人生であったことは間違いない。
そういう苦難を経て名君になる国王の生き方がドラマ『イ・サン』の骨子であった。
イ・サンを演じたイ・ソジンもこう語っている。
「『イ・サン』が人気を博したのは、正しいリーダーに対する人々の願いが大きいようです。国王の中でも正しい政治と情け深く寛大な性格で歴史に残っている正祖の一代記は、この時代が願うリーダーの姿だったと思います」
「私が特に感じた正祖の魅力は、なんといっても、人間らしさですね。王としての役割も立派にこなすけれど、幼なじみとの友情、臣下との信頼関係、愛する女性との関係、そして家族との絆など、周辺人物との人間関係が、それぞれの人に心から相対していることを感じさせていました」
何よりも、見ている人に勇気を与えるという意味でも『イ・サン』は、「ドラマの王道」を行く作品であった。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
イ・サン(正祖〔チョンジョ〕)が進めた政治改革!朝鮮王朝全史23
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