国王以上の存在感
張保皐は、自分の娘が文聖王の妻となるように画策した。父の代から張保皐に恩がある文聖王は、その申し出を受け入れた。
しかし、文聖王の側近たちがこぞって大反対した。
「夫婦の道には、おのずから倫理が必要です。国の存亡にかかわることですから、張保皐の娘を王妃に迎えるのはおやめください」
あまりに強硬な反対に、文聖王はあきらめざるをえなかった。このことを恨んだ張保皐は、王朝に対して反旗を翻そうとした。その動きを察知した文聖王は、恩人といえども討たなければならないと覚悟した。
王朝側では張保皐の暗殺を計画した。光州(クァンジュ)の閻長(ヨム・ジャン)という者がひそかに選ばれた。
846年、閻長は国に逆らって追われている身だと装って張保皐に近づいた。張保皐は何も疑わず、豪傑の閻長を丁重に遇した。
二人は意気投合し、よく酒を飲んだ。そんな酒席で、閻長は張保皐が酔ったすきに剣を奪い、有無を言わさず張保皐を斬殺した。
油断が命取りになった。王さえしのぐ力を持った勇者なのに、張保皐は人を信じすぎて命を落とした。その瞬間に、彼の野望は見果てぬ夢で終わった。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化と、韓流および日韓関係を描いた著作が多い。特に、朝鮮王朝の読み物シリーズはベストセラーとなった。主な著書は、『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』『日本のコリアをゆく』『徳川幕府はなぜ朝鮮王朝と蜜月を築けたのか』『悪女たちの朝鮮王朝』『宿命の日韓二千年史』『韓流スターと兵役』など。最新刊は『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』。
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