最期のとき
6月28日、左議政(チャイジョン/副総理に該当)の沈煥之(シム・ファンジ)が尋ねた。
「夜間におからだのご様子はいかがでしたか」
正祖は「少し眠った」と答えた。
今度は李時秀が尋ねた。
「夜間に何か召し上がったものはありますか」
正祖が「ない」と答えたので、李時秀は人参茶を用意した。
李時秀「優秀な医官を呼んでありますので脈をお取りになったらいかがですか」
正祖「今の世に病のことをすべて知っている医官がどこにいるというのか」
大いに嘆いた正祖はさらに言った。
「まあ、せっかくだから医官をここに呼べ」
医官が正祖の脈を取った。正祖が質問した。
「煎じ薬をどのようにすれば良いのか」
医官は「気を補う薬を使いながら、脾臓を温かくする必要があります」と答えた。
しばらく後に、李時秀が煎じ薬を持ってきた。
正祖が「誰が作ったものなのか」と尋ねると、李時秀は「多くの医官が相談して決めたも同然の煎じ薬です」と言った。
「5匁〔もんめ/重さの単位で約3・75グラム)くらいか」
「人参が3匁入っています」
ここで「朝鮮王朝実録」のこの項の記録が終わっている。
その後、正祖は危篤状態となってしまった。
そして、48年の生涯を終えた。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化と、韓流および日韓関係を描いた著作が多い。特に、朝鮮王朝の読み物シリーズはベストセラーとなった。主な著書は、『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』『日本のコリアをゆく』『徳川幕府はなぜ朝鮮王朝と蜜月を築けたのか』『悪女たちの朝鮮王朝』『宿命の日韓二千年史』『韓流スターと兵役』など。最新刊は『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』。
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