元の崩壊
1365年に、反対派のクーデターは鎮圧された。同年に皇后のバヤン・フトゥクが世を去ったことで、奇皇后はようやく皇后の座に就いた。しかし、度重なる内乱により、元は衰退してしまい、各地で虐げられていた漢民族が反乱を起こした。
1368年、新たに誕生した国家の明は、大軍を率いて元の首都を占拠した。奇皇后は、その明の大軍を前に逃げることが精一杯だった。元がそれほどの危機に陥っていたのにもかかわらず、高麗から援軍が出なかったことが、奇皇后の人望の低さを証明していた。
元の皇帝だったトゴン・テムルは、明から逃げている途中で亡くなってしまう。その後を継いで、新たな皇帝となったのは、奇皇后の息子のアユルシリダラである。
高麗出身でありながら、元の皇室になった奇皇后の生涯は波乱に満ちたものだった。彼女についての記述は、トゴン・テムルが亡くなった後から途絶えてしまっているため、いつどこで亡くなったのかもわかっていない。
奇皇后は、本当に謎の多い女性なのである。
文=康 大地(コウ ダイチ)