ドラマ『大王世宗』は、朝鮮王朝最高の名君と呼ばれた4代王・世宗(セジョン/在位は1418~1450年)の人間らしい苦悩を描いた時代劇だ。彼は、韓国の小学校の校庭にかならず銅像があるほど今でも最高の尊敬を集めている。なぜここまで世宗の評価が高いのか。それは、朝鮮半島固有の言語であるハングルを作るうえで一番大きな功績があったからだ。
漢字は難しすぎた
『大王世宗』を見ていると、民族固有の言語を作ろうとすることの大変さがよくわかる。世宗は信頼を寄せていた側近から「漢字以外の言葉を作ると文化が衰退する」と猛反対され、中国大陸の明の使節からは「固有の文字を使うなら我が軍は戦争も辞さない」とおどかされる。
明は、周辺国家が固有の文字を持てば中華文明の繁栄がおびやかされると警戒していたのである。
ドラマでは、固有言語の創製に励む世宗が完全に四面楚歌になる。それほど、抵抗は大きかった。
当時の事情を振り返ってみると……。
15世紀前半までの朝鮮半島の正式な文字は漢字だった。しかし、中央政府の政策が全国の津々浦々まで布告されても、実際に庶民は漢字で書かれた公告文をほとんど読むことができなかった。
その一方で、多くの官僚たちは漢字に精通しているという点で、「自分たちは庶民とは違うんだ」とばかりに特権意識をひけらかしていた。そういうところに世宗は不満を持っていた。
彼は、全国各地に国の政策を浸透させるには、庶民も気軽に読める文字が必要だと考えていた。国教になっていた儒教の基本的な考え方を社会に定着させるためにも、庶民もやさしく覚えられる文字が必要だった。
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