英祖(ヨンジョ)と思悼世子(サドセジャ)に確執が生まれた日(再読版)

周囲が凍りついた

かんしゃく持ちの英祖が起こりだすと手がつけられなかったので、その場をとりつくろうために思悼世子はあえて飲酒を認めたのだ。
けれど、それが良くなかった。
かえって英祖の怒りが爆発した。
たまらず、女官が進み出て言った。
「世子様はお酒をまったく飲んでおりません。お酒の臭いをお調べになればわかることでございます」
女官が本当のことを言ったのに、思悼世子は自分から否定した。




「自ら酒を飲んだと申し上げた。余計なことを言うな」
こうした思悼世子の態度を潔いと褒めるかと思ったら、英祖は激しく思悼世子のことを罵倒した。
その光景は周囲が凍りつくほどであった。
この日の出来事が、英祖と思悼世子の確執が表面化した最初であった。
以後、両者の確執は根深くなっていくが、それは老論派が意図した通りであった。
それから6年後、思悼世子が英祖の命令で米びつに閉じ込められて餓死した。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

英祖と思悼世子について紹介している『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』(康熙奉〔カン・ヒボン〕著/実業之日本社)

康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化と、韓流および日韓関係を描いた著作が多い。特に、朝鮮王朝の読み物シリーズはベストセラーとなった。主な著書は、『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』『日本のコリアをゆく』『徳川幕府はなぜ朝鮮王朝と蜜月を築けたのか』『悪女たちの朝鮮王朝』『宿命の日韓二千年史』『韓流スターと兵役』など。最新刊は『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』

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