周囲が凍りついた
かんしゃく持ちの英祖が起こりだすと手がつけられなかったので、その場をとりつくろうために思悼世子はあえて飲酒を認めたのだ。
けれど、それが良くなかった。
かえって英祖の怒りが爆発した。
たまらず、女官が進み出て言った。
「世子様はお酒をまったく飲んでおりません。お酒の臭いをお調べになればわかることでございます」
女官が本当のことを言ったのに、思悼世子は自分から否定した。
「自ら酒を飲んだと申し上げた。余計なことを言うな」
こうした思悼世子の態度を潔いと褒めるかと思ったら、英祖は激しく思悼世子のことを罵倒した。
その光景は周囲が凍りつくほどであった。
この日の出来事が、英祖と思悼世子の確執が表面化した最初であった。
以後、両者の確執は根深くなっていくが、それは老論派が意図した通りであった。
それから6年後、思悼世子が英祖の命令で米びつに閉じ込められて餓死した。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
英祖(ヨンジョ)と思悼世子(サドセジャ)〔第1回/老論派の陰謀〕