怪しい者ではありません
「夢に臭いが付いているのか」
そう思った瞬間に目が覚めると、ドーベルマンのような猛犬がまさに私に襲いかかろうとしていた。
その犬を誘導しているのが銃を持った兵士だった。それも数人。私は猛犬と屈強な男たちに囲まれていた。
本当に恐ろしかった。一瞬で酔いが覚めた。
「何をしている?」
若い兵士の鋭い声が飛んだ。
何をしているも何も、酒に酔って海岸で寝入っていただけだ。
<それのどこが悪い? とにかく、命だけはお助けください>
私は猛犬を避けながら、必死にそう思った。
兵士たちの銃が闇の中で不気味に光っていた。
「ここは夜間立ち入り禁止だ。そんなことも知らんのか」
兵士にきつい口調で言われた。
彼らの説明によると、北朝鮮の兵士の侵入を防ぐために夜間の海岸は完全な立ち入り禁止になっているそうだ。
うかつにも知らなかった。私はとにかく「怪しい者ではありません。日本から来た、ただの酔っぱらいです」ということを説明して、逃げるように民宿に戻っていた。まさに「脱兎のごとく」である。
あんなに怖い思いをした酒はなかった。
チュンサンを気取ったのがいけなかった。彼らも夜間立ち入り禁止の海岸で撮影をしていたわけだ。もちろん、軍の許可を得ていたに違いないが……。
文=康 熙奉〔カン・ヒボン〕
構成=「歴史カン・ヒボン」編集部