「本貫」とは何か
元来、韓国では夫婦別姓である。女性が結婚しても姓は変わらないのだ。これは、自分の出身一族を終生明らかにするためだ。
韓国では、どの一族の出身であるかが特に重要視されており、女性はたとえ結婚しても自分の姓を守り続ける。
子供は原則的に父親の姓を名乗ることになっていた。それによってややこしいことも起きる。たとえば、夫婦が離婚して子供が母親に引き取られた場合、子供は父親の姓を名乗り続けるので、保護者である母親と子供の姓が違ってしまう。さらに母親が別の男性と再婚した場合、夫、妻、子供の3人の姓が違うという現象になる。このあたりは、日本では考えられないことだろう。
最近では法律が変わって、子供が母親の姓を名乗れるようになった。これで少しは母子の姓をめぐる混乱も少なくなるだろう。
なお、韓国人の姓には「本貫(ポンガン)」という隠れたキーワードがある。「本貫」というのは、一族の始祖の出身地を表すもので、いわば同姓内の流派と考えればいい。漢字2文字になっていて、金という姓なら「慶州(キョンジュ)」「安東(アンドン)」といった本貫がある。
同姓であっても本貫が違ければ別の一派と見なされる。金や李のように非常に人口が多い姓の場合は本貫がたくさんあり、その場合は自分の本貫によってどの一族に所属するかを表していた。
かつては、同じ「本貫」を持っていると、親戚と見なされて結婚できなかった。同族同士は結婚しないのが決まりだったのだ。
そのことは長く法律で規定されていたが、人権保護の面で問題があり、今は法律の条項からはずされた。とはいえ、慣習として同じ本貫同士の結婚は今も韓国では敬遠されていて、現代版の「ロミオとジュリエット」が数多く誕生してしまう。
そういう事情があるので、たとえば金という姓の男女が知り合った場合には、まず、互いに本貫を確認しあって、同族であるかどうかを見極めたりする。本貫が違えばホッと胸をなでおろすところだが、もし同じならば、恋愛に発展しないように必死に自制しなければならない。なんとも気苦労が多いことだ。
文=康 熙奉〔カン・ヒボン〕
構成=「歴史カン・ヒボン」編集部