狡猾な権力亡者
燕山君は、王の威厳を取り戻すために、李佐世に厳しい罰を与えようとした。
「今すぐ、こいつの首をはねよ」
しかし、その命令は実行されなかった。
普段は歯向かわない臣下たちも、酒をこぼしただけで同僚を殺すことなど到底できなかった。
「李世佐は高い位に位置する人物でございます。それを簡単に殺してしまっては、宮中が混乱してしまいます。どうか、どうか寛大なご判断をお願いします」
多くの臣下たちに止められた燕山君は、その申し出をしぶしぶ受け入れた。
「もうよい、李世佐については、家族全員の官職を没収した上で、都から追放せよ。ああ、気分が悪い。余はもう寝るぞ」
この一件はこれで済んだが、さらに、燕山君から宮中へ来るように言われた高官が、その呼び出しを無視する事件まで起きた。もはや、燕山君の権威は完全に失墜していた。そのことを彼も認めざるをえなかった。
「王に歯向かうとは……。ただでは済まさんぞ」
燕山君はその場の怒りを必死に抑え込み、着々と反撃の機をうかがっていた。
このように燕山君から心が離れる臣下が増える一方で、彼に取り入って甘い汁を吸おうとしている者たちも存在した。
その1人が任士洪(イム・サホン)だった。ずる賢く保身にたけていた彼は、先王の成宗(ソンジョン)にその狡猾さを見抜かれ出世の道を断たれていたが、燕山君に近づいて復権の機会をさぐっていた。
「一度はどん底を見たオレだが、絶対にあきめない。必ず権力を手にしてやる」
任士洪には、燕山君に取り入ってもらえる秘策があった。(ページ3に続く)