呆然とする思悼世子(サドセジャ)/朝鮮王朝劇場5

親子の確執

核心部分を突かれて、思悼世子は胸の内を苦しげに語った。
「父上が私の反省文を当初は喜んでくれたのだが、次第に猜疑心(さいぎしん)が強くなって、『こんなものは認められない』と急に気持ちが変わってしまった。父上にはそのように偏屈なところもあり、それが私にとっては不利な方向に働いたのかもしれない」
「結局、あなたには敵が多かったし、その人たちが悪口を散々吹き込んだことによって、英祖は怒りを抑えられなくなって、あなたに自害を命じたわけですよね」
「そうなんだ。私は父上から文政殿の前庭で自害を命じられたが、気が動転して泣きじゃくるばかりで、自ら命を絶つことができなかった」




「その結果、米びつが運ばれてきて、あなたは閉じ込められてしまいました」
「閉じ込められた後でもすぐに許してもらえると思っていた。父上が気持ちを変えて救ってくれるものと期待していたら、まさか……」
「英祖は本当に頑固な性格ですね。8日目に米びつを開けてみたら、あなたはすでに餓死していたそうです」
「自分の命が尽きた瞬間というのは覚えていないが、狭いところに閉じ込められて食べ物もなく、本当に地獄の苦しみだった。世子といえば次の国王。そんな身分の自分が、まさか餓死という最悪の状況に置かれるとは夢にも思わなかったが……」
「本当に辛い経験をしましたね」
「あれから250年も経つのだが、未だに苦しくて仕方がないのだ。だから、こうして文政殿が見える場所で呆然としている」
「英祖といえば、宗廟(チョンミョ)のとなりのタプコル公園で、囲碁の準備をしてあなたを待っているそうですよ。謝罪したいのでしょう。行く気はないんですか?」
「行こうとは思わない」
「なぜですか?」
「……私は囲碁ができないからだ」
そう言って思悼世子は悲しい顔をした。
250年経っても、まだ親子の確執は続いていた。果たして、2人が和解できる日が訪れるのだろうか。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

痛恨の事件を語る英祖(ヨンジョ)/朝鮮王朝劇場3

英祖(ヨンジョ)と思悼世子(サドセジャ)〔第1回/老論派の陰謀〕

正祖(チョンジョ)/朝鮮王朝おどろき国王列伝5

固定ページ:
1 2

3

関連記事

ピックアップ記事

必読!「悪女たちの朝鮮王朝」

本サイトには、「悪女」というジャンルの中に「悪女たちの朝鮮王朝」というコーナーがあります。ここでは、朝鮮王朝の歴史の中で政治的に暗躍した女性たちを取り上げています。
朝鮮王朝は儒教を国教にしていた関係で、社会的に男尊女卑の風潮が強かったのです。身分的には苦しい境遇に置かれた女性たちですが、その中から、自らの才覚で成り上がっていった人もいます。彼女たちは、肩書社会に生きる男性を尻目に奔放に生きていきましたが、根っからの悪女もいれば、悪女に仕向けられた女性もいました。
「悪女たちの朝鮮王朝」のコーナーでは、そんな彼女たちの物語を展開しています。

もっと韓国時代劇が面白くなる!

韓国時代劇によく登場する人物といえば、朝鮮王朝の国王であった中宗、光海君、仁祖、粛宗、英祖、正祖を中心にして、王妃、側室、王子、王女、女官などです。本サイトでは、ドラマに登場する人物をよく取り上げています。

ページ上部へ戻る