綾陽君(ヌンヤングン)/仁祖(インジョ)の生涯〔後編〕

アワビ毒物事件

調べれば調べるほど、司憲府は李馨益に強い疑いを持った。そこで、本格的な調査に乗り出したのだが、急に上からストップがかかった。
「李馨益の取り調べはまかりならぬ」
こう命令したのは、なんと仁祖自身だった。
なぜ彼は疑惑の人物をかばったのか。
その黒幕が、仁祖と趙氏だったからではないのか。
かくして、昭顕の死の真相はうやむやになってしまった。
それでも、妻の姜氏は真相を知ろうと協力者を集めた。そんな動きが仁祖と趙氏を刺激した。
事件が起こったのは、1646年1月3日のことだ。王の食膳に揃えられた料理の1つから毒物が発見されたのだ。
その料理とは、アワビの焼き物だった。




誰が毒物を料理に盛ったのか。
徹底的な捜査が行なわれ、容疑者にされてしまったのが姜氏だった。
姜氏に付いている女官が何人も拷問にかけられ、その内の1人が耐えかねて、姜氏の関与をほのめかした。
それを根拠にして、仁祖は姜氏に死罪を命じた。
しかし、高官たちから反対意見が続出した。
「姜氏が毒を盛るはずがありません」
誰の目から見ても、姜氏の無実が明らかだったのだ。
これは作られた冤罪であった。
裏で趙氏が暗躍していたに違いない。(ページ3に続く)

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