暴君の燕山君(ヨンサングン)はなぜ張緑水(チャン・ノクス)を寵愛したのか

 

貧しい家の出身だった張緑水(チャン・ノクス)は、王族の屋敷で働く奴婢(ぬひ)と結婚して息子も産んでいた。しかし、夫と息子を置いて家出して妓生(キセン)となった。成り上がりたい、という自らの欲望を叶えるためだった。




怪しげな魔法を使ったのか

張緑水には、不思議なほど妖艶な色気があったようだ。
妓生になった張緑水は30歳を過ぎていたが、10代に間違えられることもあったという。朝鮮王朝10代王の燕山君(ヨンサングン)は、そんな張緑水が気に入って、さっそく宮中に招き入れた。
ほどなく張緑水は燕山君の側室となった。果たして、張緑水はどんな魔法を使ったというのだろうか。
なにしろ、最下層の身分だった女性が、中央集権王朝の頂点に君臨する国王を籠絡したのである。そんな状況は、怪しげな魔法を使ったとしか説明ができない。
燕山君の側室となった張緑水は、宮中でさまざまな無礼を働いた。
王家の女性たちは「妓生あがりは下品すぎる」と眉をひそめるが、張緑水は「上品ぶっても人間はひとかわむけばみんな下品」とばかりに悟りきった表情で屈託がない。さらに、張緑水をつけあがらせていたのが、暴政を行なう燕山君という存在だった。
とにかく、王室が乱れに乱れた。張緑水を寵愛する燕山君は毎晩のように酒宴を開き、酒池肉林を繰り返した。




王の威光を利用して、張緑水も宮中でやりたい放題だった。倉庫の財宝を勝手に自分の家に運んだり、王家が抱える金で自分の派手な装身具をつくったりした。側近が止めるのも聞かず、張緑水は国家の富を私物化したのである。
燕山君と張緑水の浪費によって、朝鮮王朝は破産に近い状態となった。すると、燕山君は民衆に高い税金をかけ、高官たちの資産も没収しようとした。
王を陰で動かす悪女として、張緑水は激しい憎悪を浴びるようになった。
張緑水は、王と虚飾に溺れた日々を過ごし、それが永遠に続くと錯覚していた。
しかし、暴君の悪政は長く続かなかった。
1506年、国を憂えた高官たちがクーデターを起こして、燕山君は王位を追われて流罪となった。正妻だった慎氏(シンシ)は廃妃となり、その他に燕山君の取り巻きたちも処罰された。
張緑水は斬首となり、その遺体はしばらく市中にさらされた。その遺体に向かって多くの民衆が唾を吐いて石を投げたという。暴政のせいで生活が苦しくなった恨みを露骨にぶつけたのである。




果たして、暴君の燕山君を誘惑して、さらなる悪政に走らせた張緑水の本性とは何だったのだろうか。
もちろん、彼女が希代の悪女であることに変わりがないが、極端に貧しい家で育った女性が、自らの欲望を叶えた末に虚飾に溺れたと考えれば、張緑水もまた厳しい朝鮮王朝の身分制度の犠牲者の1人だったと言える。それが、彼女の悪名にとっての免罪符になるわけではないのだが……。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

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