怪しげな「世子の妻」
文宗は13歳で初めての妻をめとることになった。相手は名家出身の美女で文宗より4つ歳が上だった金氏(キムシ)である。
しかし、父の心配を理解していたとはいえ、まだ幼かった文宗は女性に興味を持つことができず、金氏との結婚生活はうまくいかなった。
ところが、世子に嫁いだ女性にとっては、息子を産むことは将来的に王の母になることを意味する。金氏は世子に嫁ぐことで一族の命運までも背負っていたのだ。
強い使命感による焦りは、金氏から余裕を奪っていき、宮中で蛇やコウモリを干して粉末にしたものを密かに作ってばかりいた。これは、今でいえばフェロモンを出しそうな秘薬だった。しかし、噂が噂を呼び、金氏は魔女のように言われるようになった。
金氏としては、子を授かるためのまじないのつもりだったのだが、こうした怪しい行動はすぐさま世宗に報告された。顔をしかめた世宗は、ついに金氏を離縁して王宮から出してしまった。
王の子を産めなかったばかりか、実家に帰されてしまった金氏。彼女の父は一族の不名誉だと激怒して、なんと娘の命を奪ってから自決した。いわば心中なのだが、あまりに不幸な結末となった。
最初の妻を世宗が追い出してしまったので、文宗は次に奉氏(ポンシ)と再婚した。ただ、この女性にも文宗は関心を示さなかった。
寂しくて仕方がなかった奉氏は、なんとか文宗の気を引こうとして積極的に誘いをかけるのだが、むなしく失敗に終わるだけだった。(ページ3に続く)