1680年の秋、都の漢陽〔ハニャン〕(現在のソウル)では不思議な天気が続いていた。どんよりと曇った日が続いている中で、彗星のように見える白い帯状の気体が空に現れて、何日も消え去ることがなかった。
当時の人々はいつもと違う自然現象があると、それを天変地異と結び付ける傾向があり、誰もが不安な日々を過ごしていた。
「測候官〔チュックグァン〕を宿直させて空の見張りを続けろ!」
宮中にも特別な命令が出て、気候を観察する測候官の間でも緊張が走った。しかし、誰にも異常気象の原因がわからなかった。
そんな不安な時期に19代王・粛宗〔スクチョン〕が見初めたのが、張玉貞〔チャン・オクチョン〕という女性だった。
それは、後世の人たちが“朝鮮王朝時代の悪女の典型”と評した張禧嬪〔チャン・ヒビン〕の若き日の姿だった。
この年には粛宗の最初の正妻だった仁敬〔インギョン〕王后が亡くなっているが、粛宗の心はすでに張玉貞しか見えていなかった。天変地異こそ起きなかったものの、その後の宮中を大騒動に巻き込む端緒がその秋に芽生えたのである。
張玉貞は1659年に生まれたと伝えられている。女官として宮中に入ってくると、その美貌がたちまち評判となって粛宗の目にとまった。
粛宗が19歳で、張玉貞が21歳のときだった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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