血に染まった布
任士洪は満を持して、彼は燕山君に接見を申し込んだ。
「お伝えすべきか迷いましたが、やはり報告させていただきます。殿下のお母様についてでございます」
燕山君の産みの母は、成宗の寵愛を一時期受けていたが、不祥事を相次いで起こして死罪となっていた。
当時、まだ幼かった燕山君はそのことを知らなかった。もちろん、この出来事は宮中で禁句になっていた。なぜなら、気性が激しい燕山君が、その話を聞いたらどうなるか、火を見るより明らかだったからだ。
「母上がどうしたと言うのだ。余が幼い頃に病気で亡くなったと聞いているが……」
「真相を殿下に隠していました。すべては殿下のお心を思ってのことでしたが、私にはもう限界です。母上様は死薬を飲まされて殺されたのです」
涙ながらに死の真相を伝える任士洪。かつて彼には、燕山君の母の処罰に反対したという過去があった。それゆえ、臆することなく報告することができたのだ。
すべてを語り終えると、任士洪は血に染まった赤い布を燕山君に献上した。
「母上様が死薬を呑まされた時に吐かれた血で染まった布でございます」
ここまで用意したのだから、任士洪の準備は周到だった。
燕山君は布を抱えて、その場で泣き崩れた。
その嗚咽は、王宮中に鳴り響いた。
一晩中泣き続けた燕山君。落ち着きを取り戻した彼の目には、怒りと復讐の火がごうごうと燃えていた。(ページ4に続く)